- 2024-03-31
- 2024-04-01
溶連菌検査にご注意
前回、一般的に「かぜ」と言われるものには、感冒・急性鼻副鼻腔炎・急性咽頭炎・急性咽頭炎が含まれることをお話ししました風邪(かぜ)とは? – たかみこどもクリニックブログ (takami-kodomo.com)。また、急性咽頭炎の多くはウイルス感染症ですが、溶連菌が原因の場合には抗菌薬を飲むことを書きました。今回は、溶連菌についてお話しします。
溶連菌の診断は非常に難しく、溶連菌抗原検査で陽性=溶連菌感染症ではありません。気軽に検査を受けるべきではありません。どの様なときに検査をするかが重要で、あてずっぽうに検査を行ってしまうと、溶連菌陽性であっても半分以上は溶連菌感染症ではありません。咽頭炎でない、ウイルス感染を疑う咳や鼻水がある、3歳未満のお子さん、などは溶連菌検査を一般に行うべきではないとされています[2,3]。
溶連菌感染症とは、突然の発熱、頭痛、咽頭痛などが特徴です[1]。5~15歳のお子さんに多いですが、大人でもかかります。
【溶連菌ぽい症状】突然発症の咽頭痛、発熱、頭痛、嘔吐、扁桃の白い滲出物、首の前方のリンパ節がはれる
【ウイルス感染ぽい症状】鼻汁、咳、結膜炎、げり
【検査】溶連菌感染症を疑う場合、のどを綿棒でこすり抗原検査を行います。
【治療】診断されたら通常ペニシリン系抗菌薬を10日間飲みます。
【保菌】無症状のお子さんに検査をした場合にも、10-30%で溶連菌が陽性となり、「保菌」と言います。無症状なので、悪さはしておらず治療も不要です。この「保菌」が診断をややこしくします。保菌している人がウイルス性のかぜをひき、溶連菌検査を受けると陽性となるため、溶連菌感染症と診断されます。お分かりの様に、この診断は間違っており、溶連菌はのどに住み着いているだけです。
【溶連菌に対する抗菌薬治療のメリット?】
①早く良くなる:確かに溶連菌感染症であれば抗菌薬を飲むと多くの場合24時間で熱が下がります。ただし、抗菌薬で治療しなくても数日で熱がさがることが多いです。多くの研究をまとめると抗菌薬治療した人としなかった人で3日目の発熱の割合に差がありませんでした[4]。
②重症感染症を予防する:抗菌薬治療で扁桃周囲膿瘍の割合が低くなります[4]。しかし、小児では予防効果はないようです[5]。これは、扁桃周囲膿瘍が思春期以降に起こりやすく、子どもより大人に多いからかもしれません。
③合併症を予防する:溶連菌感染症の合併症にリウマチ熱(心臓や関節に炎症を起こす)や急性糸球体腎炎(血尿・尿が出なくなる)があります。抗菌薬治療でリウマチ熱の割合が減るとされ[4]、そのために熱が下がっても10日間抗菌薬を飲み続ける必要があります。急性糸球体腎炎の予防効果はありません[4]。リウマチ熱は昔は多かったのですが、近年先進国ではほとんど見かけなくなってきています。私はリウマチ熱を診たことがありません。1975年以降の研究では、抗菌薬をしてもしなくてもリウマチ熱となった患者がおらず、抗菌薬使用の有無で差が出ていません[4]。つまり、合併症予防のために抗菌薬を内服するというのはあまり意味がありません。また、3歳未満ではそもそもリウマチ熱の発症がほぼありません。
【溶連菌抗原検査の正答率】近年、様々な病原体の抗原検査ができるようになり、検査を重要視する傾向があります。保育所から検査してこいと言われることも多いようです。一般の方は、検査は正しい結果を教えてくれると考えるかもしれませんが、抗原検査は必ずしも正しい結果を教えてくれるとは限らないため、どの様なときに検査するか、検査結果をどの様に解釈するかが大事です。溶連菌の検査は特に結果の解釈が非常に難しく、溶連菌感染が疑わしくないときには検査すべきではありません。このページでは詳しく説明しませんが、検査キットには感度・特異度というものがあります。さらに、溶連菌でややこしいのは、上述した保菌があることです。医師が検査を考える場合、検査前確率というものを考えます。検査前確率によって検査結果の意味が変わるからです(ベイズの定理と言います)。溶連菌検査の感度80%、特異度95%、溶連菌の保菌率20%と仮定します。溶連菌の検査前確率が10%の場合、溶連菌検査陽性のときの真の溶連菌感染症は約31%です。つまり、約7割は誤診ということになります。検査前確率が5%の場合、検査陽性でも真の溶連菌感染症は17%しかありません(83%は溶連菌感染症ではない)。溶連菌感染が疑わしくないときに検査すべきではないことがお分かりいただけましたでしょうか?保育園で溶連菌が出ているから検査して欲しいと言われることが時々ありますが、溶連菌感染を疑う状況でなければ検査するのはデメリットの方が大きいです。必要ないのに、抗菌薬を飲むことのデメリットは先日お話ししました抗菌薬(抗生物質)について③ – たかみこどもクリニックブログ (takami-kodomo.com)
【3歳未満で検査をすべきでない理由】乳幼児では、溶連菌感染症の割合が少ない、感冒や急性咽頭炎との区別がつけにくい、溶連菌の症状が典型的でない、リウマチ熱は3歳未満では発症しないといったことから、抗原検査は通常すべきではないとされています[2,3]。
溶連菌を疑う状況(5歳以上、発熱、突然の咽頭痛、咳や鼻水がないなど)であれば検査のメリットがありますが、溶連菌であっても自然に治ることも多く、合併症の予防効果も高くないため、発熱したからといって慌てて検査するメリットは高くないと考えられます。
【参考】
[1]A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは (niid.go.jp)
[2]抗微生物薬適正使用の手引き第3版
[3]Clin Infect Dis. 2012;55:e86-102.
[4]Cochrane Database Syst Rev. 2021;12:CD000023.
[5]Current Opinion in Infectious Diseases 23:242-248.