てんかんとは

てんかんのイメージ画像

てんかんは、てんかん発作を慢性的に反復する脳の病気です。
「てんかん」は病気の名前で、「てんかん発作」や「けいれん」は症状の名前です。

てんかん発作は通常短時間(数秒~数分間)のことが多く、てんかんの方でも発作が起こっていないときには正常です。
てんかん発作を反復して起こしやすい状態の人が、てんかんと診断されます。

てんかん発作とは

てんかん発作は、大脳の神経細胞が過剰な活動をするために、普通と異なる体の動きや感覚の変化、意識の低下などが突然起こります。
大脳には部位によって様々な機能があります。
そのため、てんかん発作を起こす大脳の部位によって、てんかん発作には様々な症状があります。
てんかんには、「けいれん」や「泡を吹いて倒れる」というイメージが強いですが、これらはてんかん発作の一部で、けいれんしない発作や意識がなくなっても倒れない発作もあります。
さらには意識がなくならない発作もあります。
てんかん発作と気付かれにくい発作もあり、何年も経っててんかんと診断される方もいらっしゃいます。

この様にてんかん発作は多彩ですが、発作の起こる大脳の部位は人によって決まっているため、多くのてんかんの方では起こるてんかん発作は1種類です。
ただし、てんかん発作が起こると神経細胞の過剰な活動は周囲の神経細胞に広がることで、発作の最中に変化することがあります。
例えば、右手のけいれんから始まり途中から全身けいれんとなることがあります。

てんかん発作の例

  • 倒れてけいれんする
  • 急にぼーとした表情になるが数秒で元に戻る
  • 急に立ち止まってぼんやりする
  • うろうろと動き回る、無目的な行動をする
  • 手や足がびくっとする、持っている物を落とす
  • 睡眠中に起き上がって嘔吐する
  • 光が見える
  • 音が聞こえる
  • お腹がムカムカする

てんかん発作の分類

てんかん発作は大きく分けると、焦点(しょうてん)発作と全般発作に分けられます。
ほとんどの場合、どちらかの発作だけ起こします。

焦点発作

焦点発作では、大脳の一部に発作を起こしやすい部位があり、そこからてんかん発作が起こります。
以前は部分発作と呼ばれていました。

前述した様に、大脳のどの部位からてんかん発作が起こるかによって、てんかん発作の始まりの症状が決まります。
発作の始まりは、意識があって本人が症状を自覚できることもあり、この自覚症状を"前兆"と呼びます。
例えば、お腹がムカムカする、光が見える、音が聞こえるなどです。
前兆は発作の予兆ではなく、発作症状そのものです。

てんかん発作を起こす神経細胞の過剰な活動は、発作が続くにつれて周りの神経に広がる傾向があるため、最初は意識があっても途中から意識がなくなるあるいはけいれんするなど、症状が変化することがあります。
つまり、意識がなくなる直前に感じた症状はてんかん発作の可能性があります。
また、前兆が始まったらその後に意識がなくなる可能性があるため注意が必要です。
前兆は必ずある訳ではなく、突然意識がなくなる場合もあります。
意識がなくなって倒れる発作の人もいれば、意識がなくなっても倒れずぼんやりしたままだったりうろうろ動いたりする発作の人もいます。
この様に、てんかん発作の種類は多彩で人によって様々です。

全般発作

発作のはじめから、大脳神経細胞の大部分が過剰に活動することで起きる発作です。下記の様な発作があります。

① 欠神(けっしん)発作
10秒前後意識がとぎれぼんやりするが倒れない。
本人は発作を自覚せず、発作が終わると直前の活動を再開する。
幼児~学童期に多い。
短時間で回復し、本人は発作を自覚しないため、すぐにはてんかんと気付かれにくい。
② ミオクロニー発作
体の一部の筋肉が一瞬ビクッと動く。
軽い動きでは支障がないが、症状が強い場合、手に起きると持っている物を落としたりコップの水をこぼしたりすることがある。
立っているときに足に起きると膝がカクッとなり転倒することがある。
③ 強直(きょうちょく)発作、間代(かんだい)発作、強直間代発作
いわゆる全身けいれん。
強直発作では全身の筋肉が持続的に収縮し、つっぱり硬直する。
間代発作では、全身の筋肉がリズミカルに収縮し、ビクンビクンと一定のリズムでけいれんする。
強直間代発作では、つっぱる発作で始まり、途中からビクンビクンとけいれんする。
焦点発作の様な前兆を感じることはなく、突然意識がなくなり転倒する。

てんかんの診断

はっきりとした誘因(発熱など)のないてんかん発作を24時間以上あけて2回以上起こした場合にてんかんと診断します。
1回目の発作でも再発リスクが高い場合や典型的なてんかん症候群の場合ではてんかんと診断することがあります。

てんかん症候群

てんかんの一部は、発症年齢・てんかん発作の種類・脳波の特徴などからグループに分けられ、これをてんかん症候群と言います。
てんかん症候群には、ウエスト症候群、小児欠神てんかん、中心側頭部に異常波を示す小児てんかん、若年ミオクロニーてんかんなどがあります。

てんかん患者の人数

約100人に1人がてんかん患者であるとされており、日本には約100万人のてんかん患者がいると推定されています。
人種差や男女差はありません。
さらに一生の間に1回でもてんかん発作を起こす割合は約10%とも言われています。

てんかんの発症年齢

てんかんは子どもの病気あるいは生まれつきの病気と考えている人も多いですが、必ずしもそうではありません。
年齢が小さい程てんかんを発症しやすいですが、てんかんは大人を含め全年齢で発症します。
てんかんは小児で発症しやすいですが、高齢者でもてんかんを発症しやすくなります。

てんかんの原因

明らかな原因が見つかる場合に症候性てんかんと言い、明らかな原因が見つからず脳の機能的な異常で起こる場合に素因(そいん)性てんかんと言います。

症候性
大脳の先天性異常、大脳損傷(脳卒中、低酸素性脳症、脳炎)、脳腫瘍、染色体・遺伝子異常など
素因性
脳の機能的な異常、てんかん発作を起こしやすい体質

てんかんで行う検査

脳波検査

てんかんで最も重要な検査です。
脳波検査は、頭に複数の電極を装着し、ベッドで横になって安静状態で行います。
大脳の神経細胞が出す電気の活動を記録します。痛みや体への負担はありません。
目が覚めている状態と睡眠状態の両方が記録できることが望ましいです。
そのため、やや睡眠不足ぎみで検査を受けることをお勧めします。
また、光の点滅刺激や早い呼吸を行うことがあります。

当クリニックでの検査にかかる時間は、電極の装着⇒脳波検査⇒電極の取外し、洗髪までで1時間30分程度です。
てんかんの方は、発作が起こっていない普段の状態でもてんかん性異常波が出ていることがあり、異常波の部位や形態が参考になります。
てんかんであっても初回の脳波検査で異常波が出現する確率は約50%です。
てんかんの場合、繰り返して検査することで多くの場合異常波が検出されますが、何度検査しても正常の人もいます。
逆に、てんかんでない人でも数%で異常波が出現することがあるため、脳波異常イコールてんかんとは限りません。

頭部CT/頭部MRI

てんかんの方の一部では、大脳のダメージが原因で起こることがあります。
てんかんの原因となるような大脳の形態異常がないかを見る検査です。
てんかん発作を反復する場合には、一度は検査を受けておいた方が良いでしょう。

血液検査

以下の様な目的で行います。

  • 健康状態や薬による副作用の確認
  • 薬物血中濃度:抗てんかん薬内服治療中の方では、血液中の抗てんかん薬濃度を測定します。血中濃度は薬の効果を見ているわけではなく、薬の投与量に見合った濃度になっているか、きちんと内服できているかを確認します。飲み忘れがある方では血中濃度が一定せず、低値となります。

てんかんの治療

抗てんかん薬

抗てんかん薬は、てんかん発作を起こしにくくする薬です。
20種類以上の抗てんかん薬があります。
てんかん発作の種類や脳波の特徴、本人の特性などを考慮して薬を選択します。
薬は、指示された量を決まった回数、忘れずに飲むことで血液中の濃度が安定しててんかん発作を起こりにくくします。
薬を飲み忘れたことでてんかん発作を起こす方がたくさんいらっしゃいます。
100%忘れずに飲むことは大変ですが、できるだけ100%飲むことを目標にしましょう。

今のところ、これを飲めば確実に効くという薬は残念ながらありません。
効く可能性が高そうな薬を選択し、少量から飲み始めます。
忘れずに内服してもてんかん発作が起こる場合には、薬の量を増やすかどうか検討します。
最大量まで増やしてもてんかん発作がある場合には、別の薬を試します。

薬を忘れずにしっかり飲むことで、70~80%のてんかんの方はてんかん発作がほとんど起こらない状態になります。

てんかん外科手術

てんかんの方のうち20~30%は、抗てんかん薬を飲んでもてんかん発作が抑制できず、「難治性てんかん」と表現されます。
難治てんかんの方の一部では、てんかん外科手術により発作が消失または軽くなることがあります。
てんかん外科手術にはてんかん発作の消失を目指す「焦点切除術」や、てんかん発作の減少を目的とする「迷走神経刺激療法」などがあります。
てんかん外科手術を考慮した方が良いと考えられる場合には、各地のてんかんセンターなどで検査を受けて頂くことを御提案することがあります。

日常生活

てんかんがあっても、通常日常生活に大きな制限はありませんが、てんかん発作に伴う事故には一定の注意は必要です。
一方、お子さんに対する過度の制限は、発育や心身へ悪影響があるため、必要以上に制限をしないことも重要です。
以下に一般的な注意点を記載しますが、全ての方に当てはまる訳ではありません。担当医師にご確認下さい。

食事

一般的には特別な配慮や制限はありません。一部の抗てんかん薬(カルバマゼピン、クロバザム、クロナゼパム、エトサクシミド)を飲んでいる場合にはグレープフルーツを摂取すると、薬が効きすぎてしまうため禁止されます。
過度の飲酒はてんかん発作を起こしやすくする可能性があります。

睡眠

睡眠不足や不規則な生活は、てんかん発作を起こしやすくします。

複数の薬を服用する場合、一方の薬が別の薬の効果に影響を与えることがあり、これを薬の相互(そうご)作用と言います。
一部の抗てんかん薬では、他の薬を服用することで、血中濃度が上昇または低下することがあります。

入浴

てんかんの方が最も注意すべきは入浴です。
入浴中に亡くなることがときにあります。
てんかん患者さんは湯船に入ることは大きな注意が必要です。1人で入浴する場合はシャワー浴が安全です。
家族がリビングにいても発作に気付くことができないことがあります。
湯船に入る場合は、大人の方と一緒に入ることをお勧めします。

プール、水泳

学校プールは通常参加可能ですが、主治医や学校にご相談下さい。
監視下で、発作に気付くことができる状況であればプールに入ることができます。
どの様な発作が起こるかについて監視者に知らせておきましょう。
海や川などはプールより監視や救助が難しく、発作が起こった場合に生命の危険があるため、入らない方が良いです。
同様に、マリンスポーツも通常は参加できません。

自転車

意識が低下する発作が起こる可能性がある場合には、発作による事故の危険性が高いため、一般的には勧められません。

自動車運転

てんかんの方であっても一定の条件下で自動車運転免許を取得することが可能です。
道路交通法で決まっていますので、担当医師あるいは警察署や運転免許センターの運転適性相談窓口にご相談下さい。

医療費補助

自立支援医療制度

てんかんに関する外来通院にかかる医療費の自己負担が1割となります。
担当医師やお住まいの市町村の担当窓口にご相談下さい。
子ども医療費助成が受けられない場合には申請をすると良いでしょう。
診察や脳波検査、抗てんかん薬の費用も対象です。
指定した自立支援医療機関(病院、薬局)でのみ利用でき、通常病院と薬局を1か所ずつ指定します。
入院医療費やてんかん以外の病気に対する医療費は対象外です。